「大谷翔平は世界一の野球選手」 今や文句なし、米での評価
メジャーリーグがシーズン中間地点を過ぎた。大谷翔平はファン投票でアメリカン・リーグ最多得票を獲得し、3年連続でのオールスターゲーム出場を決めた。驚くことは何もない。大谷は3年連続で、投打の両方でトップレベルの活躍を続けている。まさに前代未聞だ。今や大谷が「世界最高の野球選手」であることに異論を唱える者は、アメリカでもほとんどいない。米新聞社でスポーツ記者の経験があり、メジャーリーグ情報を扱うYouTubeチャンネル「Sho-Time Talk」を運営する日本人ジャーナリストが、最新データをもとに、大谷の前半戦の「超怪物」ぶりを解説する。(志村朋哉 在米ジャーナリスト)
私はエンゼルスの地元オレンジ郡で、6歳の息子が所属する少年野球リーグのコーチをしている。
子供たちに「最高の野球選手は誰だと思う?」と聞くと、1年前くらいまでは、「マイク・トラウト」「アーロン・ジャッジ」「ムーキー・ベッツ」などの名前が挙げられていた。もちろん、大谷の名前も挙がるが、数人の中の1人という感じだった。
それが、今年になって、大谷の名前が真っ先に挙がるようになった。地元エンゼルスの生え抜きスターであるトラウトさえも差し置いて。親たちも、「それは大谷でしょう」という反応だ。
キャッチボールをする子どもに、「いいぞ、大谷みたいな球だ!」と声をかけると、うれしそうな笑顔を浮かべる。周りの子どもたちも「僕も大谷みたい?」と必死になって投げ始める。大谷の背番号も人気で、各チームで「17」はトラウトの「27」と並んで必ず数人が希望すんだ。
エンゼルスの地元であるということを差し引いても、大谷は今やアメリカの野球少年たちの憧れの存在であることは間違いない。
それも当然のことである。
大谷はMVPを受賞した2021年から止まらぬ活躍で、唯一の二刀流選手という珍しさに加えて、現役ナンバーワン選手としての評価を確固たるものとしたからなのだ。数字がそれを証明している。
今季前半の成績を見てみよう。
【打撃成績・6月27日終了時点】
試合数79(メジャー2位タイ)
打席数355(6位)
本塁打28(1位)
打点64(1位)
打率.304(9位)
出塁率.386(12位)
長打率.654(1位)
OPS1.039(1位)
盗塁11(失敗4)
【投球成績・6月27日終了時点】
先発登板16(6位タイ)
投球回95.1(15位)
7勝3敗
奪三振127(3位)
与四球39
防御率3.02(15位)
WHIP1.04(7位)
こうした伝統的な指標を並べられても、大谷がナンバーワンであることがピンと来ないかもしれない。
そんな時に役立つのが、個々の選手が総合的にどれだけ活躍したかを見る時に、アメリカの記者が参考にするWAR(Wins Above Replacement)という指標だ。打撃、走塁、守備、投球を全て足し合わせて、どれだけ個人がチームに貢献したかを示す。具体的には、メジャーとマイナーの間にいるような控えレベルの選手に比べて、どれだけ勝利数を上積みしたかを計算する。データサイトのFanGraphsとBaseball Referenceによる算出が有名だ。
どの選手がある年に最も活躍したかや、歴代や現役のベストナインを選ぶ際などには、完璧とは言えないが、この指標が最も端的に答えてくれる。
そのWARで大谷は、現在ぶっちぎりで1位だ。以下がFanGraphsとBaseball Referenceの算出による今季の上位5選手になる。
FanGraphs
大谷翔平 5.7
ロナルド・アクーニャ 4.3
コービン・キャロル 3.6
ケビン・ゴーズマン 3.5
ワンダー・フランコ 3.5
Baseball Reference
大谷翔平 6.1
ロナルド・アクーニャ 4.6
ワンダー・フランコ 4.0
コービン・キャロル 3.8
ボー・ビシェット 3.7
エンゼルスがシーズンの半分となる81試合を終えた時点での数字なので、単純に大谷のWARを2倍にしてみると、2021年と2022年を上回る。大谷は過去2年間で自己ベストのWARを更新し続けているが、今年もその可能性は十分にある。
1シーズンでWARが11を超える活躍をしたことのある選手は、過去50年でバリー・ボンズ、ロジャー・クレメンス、ペドロ・マルティネス、ドワイト・グッデン、カル・リプケン、ジョー・モーガン、アーロン・ジャッジしかいない。
殿堂入りペース
1年という短い期間で、ずば抜けた成績を残す「一発屋」は数多く存在する。真のスターになれるかは、それを持続できるかどうかにかかっている。
統計的には、MVP級の活躍をした選手の成績が「後退」するのは自然なことである。それ以上に良くなる理由よりも、悪くなる理由の方が多いからだ。しかし、大谷はMVPを獲得した2021年から成績をむしろ上げてきている。専門家や統計データの予想を裏切る形で。
「3年も続けてMVP級の活躍をするのは、本当に難しいことです」。ZiPSと呼ばれる選手の成績予想システムを考案したことで知られるダン・ジンボースキーは言う。「投打の組み合わせでということになると、もちろん前例すらありませんが、単純にWARだけを見ても、とてつもなくまれなことです」
FanGraphsの計算式に基づくZiPSは、大谷の2023年のWARは8.4になると予想している。その場合、2021年(8.0)と2022年(9.5)と合わせた3年間のWARは25.9となる。
ジンボースキーによると、それと同等以上のWARを3年間で記録した選手はメジャーリーグの歴史で29人しかいない。
打者では、ベーブ・ルース、テッド・ウィリアムズ、ミッキー・マントル、ロジャース・ホーンスビーといった米野球殿堂入りしている15人と、殿堂入り確実と言われるトラウト、そしてバリー・ボンズ、ジョー・ジャクソン、アレックス・ロドリゲスという成績以外の理由で殿堂入りができていない3人が名を連ねる。
投手でも、ボブ・ギブソン、ペドロ・マルティネス、ランディ・ジョンソンなどの殿堂入り選手か、19世紀に年間600イニング(現代野球の3倍)以上投げた選手などに限られる。
「3年続けて大谷のような活躍をしたことがあるのは、ほぼ全員が『史上最高クラス』と評される選手です」とジンボースキー。「大谷がこのまま健康でプレーできれば、殿堂入りしない方がおかしいくらいです」
2011年にデビューして以来、3度のMVPを受賞しているトラウトは、ほぼ誰もが認める現役最高選手として君臨していた。しかし、ここ3年間の成功で、大谷はその座を引き継いだと言っていいだろう。しかも大谷は28歳(7月5日で29歳)と、トラウトより3歳も若い。
「現役最高の称号はトラウトから大谷に移った」とジンボースキー。「(2022年のアーロン・ジャッジのように)シーズン単位で見たら、大谷を上回る活躍をする選手はいるかもしれませんが、続けてというのは難しいでしょう」
スポーツメディアThe Athleticが現役選手103人に行った匿名アンケートで、「今チームを新しく始めるとしたら、最初にどの選手と契約するか」という質問に対して、45.6%が「大谷」と回答した。ちなみに2位はジャッジの14.5%。(23年6月20日配信)
大谷を選んだ選手たちは、「理由を説明する必要すらないくらい当然のこと」だと答えている。ジャッジを選んだ選手たちは、リーダーシップを理由に挙げた。
「超」怪物
大谷の前半戦の活躍ぶりを、投打に分けて過去3年間と比較してみよう。
まず打撃だが、打率、出塁率、長打率の全てで、昨年を大きく上回っている。
【大谷翔平 過去3年の打撃成績】
打率 .257(2021年)、.273(2022年)、.304(2023年)
出塁率 .372(2021年)、.356(2022年)、.386(2023年)
長打率 .592(2021年)、.519(2022年)、.654(2023年)
アメリカの専門家が打撃力を測るのに用いるwRC+という指標がある。同じだけ打席に立ったその年のメジャー平均打者と比べて、どれだけ多くの得点を生み出しているかを算出する。単打と長打の差や球場の違いも計算に入れていて、打率や本塁打数、打点などよりも、ずっと正確に打撃力を見極めることができる。
大谷は、そのwRC+で、規定打席数に達している打者の中でダントツ1位の180を記録している。これは大谷が、平均打者(wRC+が100)に比べて80%も多く得点を生んでいることを示す。
【wRC+ 上位5選手・6月27日終了時点】
大谷翔平 180
ロナルド・アクーニャ 164
ヤンディー・ディアス 163
ルイス・アラエス 161
ランディ・アローザレナ 155
前半戦の大谷は、強打者揃いのメジャーで最高の打者だったということだ。このままいけば、自己ベスト151(21年)を更新する。
打率や打点が以前ほど重視されなくなっているため、価値は相対的に下がっているものの、三冠王の可能性もささやかれている。
ちなみに、他の日本人選手のwRC+はというと、吉田正尚が130、鈴木誠也が102。吉田は1年目であることを考えると、かなり健闘しているが、いかに大谷が飛び抜けているかが分かる。メジャー屈指の長打力を誇る打者・大谷は、イチローや松井秀喜を含め、これまでの日本人選手とは比較にならない次元にいる。
逆に投球では、サイ・ヤング賞でア・リーグ4位に入った昨年よりも、防御率は下がっている。
【大谷翔平 過去3年の防御率】
3.18(2021年)、2.33(2022年)、3.02(2023年)
9回当たりの与四球数が2.39から3.68に増えていることが、一つの要因だろう。いくつか調子の悪い試合があったことも平均値を下げている、とエンゼルスの地元紙オレンジ・カウンティ・レジスターで番記者を務めるジェフ・フレッチャーは語る。
剛速球や鋭い変化球を投げる才能以上に、投手・大谷の柔軟な適応力に驚かされるとフレッチャーは語る。スライダーやスプリット、フォーシームなど、調子の良い球種をとっさに判断して、それを中心に投球を組み立てていく能力だ。
「後半戦に調子を上げて、昨年と同じような投手成績でシーズンを終える可能性もある」とフレッチャーは述べる。
wRC+と同じように、メジャー平均に比べて、どれだけ防御率が優れているかを示すERA+という指標がある。こちらも球場の違いを計算に入れている。
大谷のERA+は、平均投手よりも43%優れている143。これは規定投球回に達している中でメジャー11位の数字だ。ちなみに、千賀滉大は118、菊池雄星は109、ダルビッシュ有は84である。
最後に、大谷が今季に積み上げたWARを投打に分けて見てみよう。FanGraphsによると、野手としてのWARは3.8(守備をしていないことがマイナス点として引かれている)でアクーニャに続く2位、投手としては1.9で17位となっている。
つまり大谷は、メジャーで最高の野手とエース級投手の働きを、一人でこなしているということだ。
野球でずば抜けた能力を持つ選手を「怪物」と称すことがあるが、大谷は単なる「怪物」ではない。打撃ではトラウトやジャッジ、投球ではゲリット・コールやサンディ・アルカンタラといったメジャーの怪物たちを二人フュージョン(合体)させた「超怪物」ともいうべき存在なのだ。。
「大谷は間違いなく現役最高の選手」だとフレッチャー記者は言い切る。「単に野球界で唯一の二刀流選手というだけでなく、投打のそれぞれでトップレベルです。その組み合わせには、誰も勝てません」
「世界一の野球選手」である大谷をポストシーズンという大舞台で見たいというのが、今や全米の野球ファンたちの願いである。エンゼルスと大谷はその期待に応えられるのか。勝負の夏になるのは間違いない。
志村朋哉 米カリフォルニア州を拠点に、英語と日本語の両方で記事を書くジャーナリスト。米新聞社の記者として5000人以上のアメリカ人にインタビューをしてきた経験とスキルをもとに、アメリカ人でも知らない「本当のアメリカ」を伝える。地方紙オレンジ・カウンティ・レジスターとデイリープレスで10年間働き、米報道賞も受賞した。大谷翔平のメジャーリーグ移籍後は、米メディアで唯一の大谷番記者も務めていた。メジャーリーグ情報を扱うYouTubeチャンネル「Sho-Time Talk」も運営している。著書『ルポ 大谷翔平』(朝日新書)
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